兵庫県立龍野高等学校 総合自然科学科2年

2023年度 課題研究・空間情報科学班 活動記録

4月 テーマ決め

 

 今年のテーマは「空き家」

5月 「空き家」の調査

 日山自治会長から日山地区の「空き家」の状況を聞く。

 

   日山地区は、龍野地区(旧龍野市)のなかで最も空き家数がもっとも多い地区であることが分かった。また、日山地区の人たちが「空き家」であることがわからないようにするために、草抜きや掃除、壊れた建具の修理をしていることを聞き、自治会長がつくった「空き家」の分布図も見せてもらうことができた。

  たつの市都市政策部まちづくり推進課を訪問し、たつの市の「空き家」の状況や対策計画、「空き家バンク」について聞いた。

 

   生徒たちは、課題研究の趣旨を説明し、たつの市の「空き家の位置データ」を提供してもらえないかとお願いしたが、個人情報、防犯上の問題から提供してもらえなかった。

   自治会長がつくった「空き家」の分布図から「空き家」のデジタルデータを作成したが、日山自治会長とたつの市まちづくり推進課の話をうけて、防犯の観点から、「空き家」の研究は断念することにした。

6月 テーマの再設定

   本校では、シカやイノシシが日常的に出没するので、生徒たちは「野生動物の行動範囲(特にシカ、イノシシ)」を研究テーマに変更した。

7月・8月 シカのフン調査

   まず、校内のシカのフンの調査を行った。

 

 

   校門にシカのフンがあることから、日山地区内にシカが出没していないかを調査することにした。校内発表に限り、「空き家」の分布図を公開しても構わないと自治会長から許可をもらったので、「空き家と野生動物との関係性」について研究を進めることにした。

9月 校内中間発表会

   テーマ設定の経緯と「野生動物と空き家の関係」について研究の進め方について発表した。

10月 研究テーマの再検討

   「野生動物と空き家の関係」に加え、日山地区が抱える問題をテーマにすることにした。日山地区は「空き家」が多い反面、新興住宅街になっている。農業用ため池の役割を終えた「山下池」は安全か、消火栓の位置は適切か、AEDはどこに設置されているか、野生動物の行動範囲とともに研究することになった。

   生徒たちで、野生動物のフン調査を行ったが、見つけることができなかったので、自治会長にお願いして「野生動物のフン調査(地図に記入してもらう形式のアンケート)」を回覧してもらうことにした。

11月・12月 データ作成

(1)消火栓の位置情報

   消火栓の位置情報がデジタル化されていないかを、西はりま消防組合たつの消防署に問い合わせたところ、消火栓の位置情報がデジタル化されていないことが分かった。たつの消防署では、消火栓の位置情報をゼンリンの住宅地図で管理していた。課題研究の趣旨を説明し、用意していた地図に消火栓の位置を書き写すことができた。

 

 

   消防署で書き写した地図をもとに、実際に日山地区内の消火栓を確認し、地理院地図(写真)を印刷したものに正しい場所を記し、地理院地図でそれぞれの消火栓の緯度、経度を調べた。スマートフォンを使って緯度、経度を調べることができるが、機種にもよるがスマートフォンでは、小数第4位で緯度、経度の情報が取得される。それに対し地理院地図では、小数第6位で緯度、経度の情報を調べることができ、精度が全く違う。また、QGISの背景地図は、地理院地図と同じ「電子国土基本図(淡色地図)」なので、消火栓の位置が正しく表示されているか確認しやすい。

 

 

 

(2)ネットワーク解析による消火栓からの放水可能範囲の作成

  図は、消火栓の位置情報をQGISに取り込み表示したものである(ピンクの点が消火栓の位置)。

 

   QGISのプラグインである「GSI-VTDownloader」を使って、「国土数値情報・道路データ(線)」のzoomlevel14(道路の中心線のデータ)をダウンロードし、ネットワーク解析の準備をした。現在の最新版の安全版は「QGIS 3.28 LTR」であるが、「GSI-VTDownloader」をインストールするとエラーがでるので、バージョンを落として「QGIS 3.16 LTR」で作業を行った。消火栓ボックスの中には、20mのホースが2本入っているので、消火栓からの距離を40mと設定しネットワーク解析を行った。さらに、放水の距離が20mなのでストローク幅を40mに設定し下の図を作成した。図の中央で、消火栓から西側に40m伸びていない箇所があることに気が付いた(道路データの融合は行っている)。同じタイル内の「国土数値情報・道路データ(線)」のデータなので、道路データ(線)が繋がっていない可能性がある。本校課題研究・空間情報科学班のアドバイザーである古川泰人氏(MIERUNE)によると、国土地理院のベクトルタイルである場合、ところどころジオメトリ的に繋がっていないことはよくあるそうなので、古川氏のアドバイスを受け、現在生徒たちはデータの接合に挑戦している。

 

(3)たつの消防署で検証

   2023年12月20日にたつの消防署に地図をみたもらい、アドバイスをいただいた。消防車が到着するまでの初期消火は、消火器による消火活動と、消火栓ボックスのホースを消火栓に繋いでの消火活動になる。日山地区は、新しく建築された住宅が多いこともあり、「消火栓ボックスのホースによる消火ができない範囲があることを知る機会になる地図」と評価をいただいた。。また、たつの消防署はGISを導入していないため、持参したパソコンで、QGISによるネットワーク解析も説明した。

 

 

(4)AEDの設置場所からの距離

   「消火栓からの放水可能範囲」のアドバイスをもらうためにたつの消防署を訪ねた時に、AEDの設置についてもアドバイスをもらった。たつの市オープンデータのAED設置箇所一覧が、現時点で正しいかを確認してもらい、設置していない場所があることがわかった(図10の粒座神社の右上)。また、AEDの正しい位置を知らせることが、大切であることもアドバイスいただいた。写真で知らせたり、地図で正しく表示することである。たつの市オープンデータは、公共施設等の決められた位置情報ですべて表示される。本校の場合、避難所にも指定されているので、避難所の記号とAEDの記号が同じ場所に表示される。

 

   そこで、本校に設置しているAEDの場所の位置情報を調べ、地図に表示した(図11)。たつの市オープンデータは、生徒たちがたつの消防署を訪問した後、2023年12月27日に更新されている。

 

   下の図は、AEDの設置場所からの距離を表している。黄色がAEDの設置場所から200m以内、赤色が300m以内、紫色が400m以内の範囲である。生徒たちはAEDまでの到達時間を考えていたが、走る速さには個人差があるので、距離で表すことにした。たつの消防署から、AEDの使用も重要であるが、救急車が到着するまでの心肺蘇生がもっとも重要であるとの指導もいただいた。隣の小神地区にもAEDの設置場所があるので、小神地区のデータを追加してネットワーク解析をする予定である。

 

(5)山下池決壊による浸水想定区域

   日山地区の西端に、山下池がある。日山地区には農地がなくなり、住宅地となっている。山下池は、農業用のため池だったが、いまでは何十年も用水利用はされていない。 以前に、ため池廃止案もあったが、調整池の役割も果たしているので見送られた。 定期的に点検を実施する必要があり、氾濫などの緊急事態にすぐに対応できないため、貯水位の調整が必要となっている。1時間に25mmまでの降水量なら対応可能と想定されている。  下の図は、たつの市産業部農地整備課から提供された山下池の決壊による浸水想定区域である。「兵庫県 CGハザードマップ(地域の風水害対策情報)」からPDF形式でダウンロードできる。

 

   「兵庫県 CGハザードマップ」では、洪水や土砂災害の情報が地理院地図上に表示されるが、ため池の決壊による浸水想定区域は表示されない。画面上のため池のアイコンをクリックすることによって、PDF形式の図が現れる。QGIS上で表示するために、図をジオリファレンスによってQGISに取り込み、シェープファイルを作成した。

 

   下の図は、たつの市産業部農地整備課独自の資料で、旧ため池台帳の紙資料をGISに投じたものである。

 

   QGIS上で表示するために、ジオリファレンスによってQGISに取り込み、シェープファイルを作成した。

 

   兵庫県が作成した図とたつの市が作成した図を見ると、浸水想定区域が大きく違っている。たつの市農地整備課に問い合わせたところ、作成時期の違いであることが分かった。兵庫県が作成した図は、ため池法が施行された令和元年(2019年)当時に作成されたもので、たつの市が作成した図は30年以上前のため池台帳に登載されていた情報で作成したものである。両者の違いは測量精度の差ということである。また、農地整備課の担当者から「県の資料を基に作製された地図は見やすく、雨水幹線(半田用水路)の表示もされており、同一の地図上に複合的に情報が集約されていれば便利であると感じた」と感想をいただいた。生徒たちが作製した地図は、課内で共有されることになった。

   下の図は、大正15年発行の地形図「龍野」をQGISに取り込み、山下池決壊時の浸水想定区域と、2年前に本校75回生が作成した内水氾濫想定区域(赤い部分)を重ねたものである。図からわかるように、山下池決壊時の浸水想定区域と内水氾濫想定区域は、かつて水田であり、遊水地の役割を果たしていた。そこに新しく住宅が建設され、浸水想定区域になっており、浸水に対する備えが必要であることがわかる。

 

(6)野生動物の行動範囲

   「野生動物の目撃、野生動物のフンの発見アンケート(地図に記入してもらう形式)」を自治会で回覧してもらったが、農地、空き地に新しく住宅が建築されたため、野生動物の目撃や野生動物のフンの発見は、2件しかなかった。本校の校門には、シカのフンがあるので本校が人間界と野生動物界の境界になっているのだろうか。「空き家」と野生動物の行動範囲の関係性を研究テーマについては、今回は断念した。

1月 HIYAMAPの作製

   生徒たちが作製した「消火栓の位置と放水可能範囲」「AED設置場所と設置場所からの距離」「山下池決壊時の浸水想定区域」「内水氾濫想定区域(75回生作製)」「山下池決壊時の浸水想定区域・内水氾濫想定区域(大正15年発行地形図「龍野」に重ねた図)」をPDFにして、日山自治会長に見てもらい、さらに修正を加えていく予定である。また、「HIYAMAP」のホームページを作成し、公開する。

1月29日

   日山自治会長、日山山下自治会長、日山河原自治会長に生徒たちが作製した「HIYAMAP」を見てもらった。今後、修正を加え完成度の高いものにしたい。

2月1日

   「国土数値情報・道路データ(線)」データが接合していないところを繋ぐ設定にし、地図を作製した。

 

   「サービスエリア(始点レイヤ)」のトポロジ許可値を「1」にする。1mまでの断線は、繋がっているものとして処理するということ。

 

2月3日

   龍野高校・生徒研究発表会が行われ、生徒たちは「GISを活用した安心・安全な「まち」づくり~HIYAMAPを例に~」を発表しました。これまでの研究報告だけでなく、日山地区の新規AED設置案も発表しました。

 小神地区のAEDを追加したAED設置場所からの距離

 黄色がAEDから200m以内の距離、赤が300m、紫が400m。

 

   この地図から、地図中央の日山山下地区の一部はAEDから400m以上の距離があることが分かります。日山河原の自治会長から、AEDを公民館に設置することを検討したが、公民館は常時開いていないので、公民館の設置をやめた話を聞きました。生徒たちは、日常開いていて、新規にAEDを設置する場所としてマックスバリュがいいのではないかと考えました。

 新規AEDの設置場所検討(マックスバリュ案)

 

 マックスバリュを新規AEDを設置し、再度ネットワーク解析

 

   マックスバリュを加えて、もう一度ネットワーク解析をおこないました。図のように、日山地区のほとんどがAED設置場所から400m以内になります。AEDは高額なので、設置には問題がありますが、検討する価値はあると思います。

2月8日 神戸新聞で紹介されました

   2月8日付神戸新聞の西播版で、生徒研究発表会での発表の様子と生徒たちが作製した「消火栓の位置と放水可能範囲」が紹介されました。

3月9日 アーバンデータチャレンジ2023で銅賞を受賞

 アーバンデータチャレンジ2023 with 土木学会インフラデータチャレンジ2023 ファイナル審査結果

 

 

アーバンデータチャレンジ2023の発表の様子が公開されています

発表は2時間29分、審査発表は4時間57分あたりで視聴できます。

<TOP>